論文番号 70

著者名 高木利光、稲本耕介、早川豊、川原睦人

論文題目 カルマンフィルター有限要素法による浅水域の流況推定

討論者 三村信男(茨城大学・工・都市システム)

質疑

 最終的な推定結果(図−11)で、連続式が成立していないように見える原因はどうしてか。

回答

 本モデルでは、運動方程式と連続の式にそれぞれシステムノイズを考慮したものを状態方程式として扱ってる。本モデルでは、状態方程式では表現しきれない現象をシステムノイズとして許容し、そのノイズの大きさの範囲で、観測データになるべく近い状態量を推定している。したがって、観測データそのものが連続性に欠けるものであった場合、観測データへの依存度を上げると、すなわちシステムノイズを大きく設定すると、推定結果としては観測データに近い推定結果となり、連続性に欠ける結果となってしまう。したがって、システムイズ、観測ノイズの設定が重要となる。

 一方、観測値についても問題がある。観測はこの場合、海底面上約1m地点の流速である。モデルでは長波近似から鉛直方向一様な流速分布形を仮定しているが、この仮定が実際に成立していない場合、それらモデルの仮定と実際との違いもシステムノイズとして考慮する必要が生じる。このように、実際問題を扱う場合はシステムノイズの設定は非常に難しく、実際は観測値が真値に近いものとしてなるべく観測値に近い状況を再現せざるを得ない。したがって、今回は連続式にもシステムノイズを考慮して観測値優先の推定を行った。今後、連続式にはシステムノイズは考慮せず、連続式は完全なものとしてどの程度現象が推定可能かを検討していきたい。

 

討論者 佐藤慎司(土木研究所)

質疑

 推定した平均流ベクトルは潮汐残差流か、風による吹送流なのか。また、移流項、底面摩擦項、風応力項を除いた基礎式で流れを議論することに問題はないのか。

回答

 状態方程式に浅水長波方程式を用い、また風などの外力項を含んでいないことから、推定した平均流ベクトルは、基本的には潮汐残差流と考える。

 また、移流項、底面摩擦項、風応力項を除いた基礎式で流れを推定することの意義については、次のように考える。まず、移流項については、今回対象としている流れが非常にゆっくりとした流れであることから、無視することができる。ただし、潮汐残差流は移流効果の表れであることから、残差流を求めようとする場合には問題があると考えられる。ただし、観測値そのものに移流の影響が現れている場合には、観測値にあわせるような推定をすることにより、その移流の効果を推定結果に反映させられるものと考える。また、底面摩擦については、対象とするような流れを推定する場合は必要と考える。線形化された摩擦項を状態方程式に入れることは可能であり、そのようにして推定した結果はより観測値に近い推定結果を得ている。風応力については、風に関する観測データがあるならば、それを反映したモデルを組み込むことは可能と考える。ただし、吹送流の場合、流れの3次元性が現れる場合もあり、底面近くで観測された流速データを使うには問題が出てくる可能性もあると考える。

 

目次に戻る