論文番号 36

著者名 岡安 章夫・上野 慎一郎・鈴木 康之

論文題目 砕波帯内長周期波の特性と数値波動モデルの適用性の検討

討論者 喜岡 渉(名古屋工業大学)

質疑

 Deigaard と同様に Boussinesq方程式に surface roller を導入して砕波減衰と砕波により発生した長周期波を計算しているが、砕波による長周期波の定量的な評価には砕波点の位置(長周期波を励起する forcing の開始点)と砕波後のここの波の減衰の仕方(radiation stress における空間勾配の与え方)が重要なファクターであると考えられる。砕波の判定として「波峰前面の水面勾配が20度を越したとき」という基準を用いているが、本研究においては数種類の海浜勾配における実験結果との比較を行っており、砕波判定基準が全てのケースで同一であるという取り扱いには疑問が残る。

回答

 確かに砕波条件を「波峰前面の角度=20度」で一律に与えることには問題がある。しかし、これは「砕波条件をそもそも何で与えたらよいか」ということも含めて砕波指標の改善の議論であると考えている。

 本研究において回答できるのは、波峰前面の砕波限界角を5度程度変化させても(もちろん砕波点は変化するが)長周期波の形成にはさほど大きな変化は見らないということである。また、波峰前面角は、実際には二つの計算格子点間の平均水面勾配で計算されるので、大きな限界角は格子点をより密に配置する必要

を生じさせ、さらに数値計算の不安定性を増加させる。この点は、Boussinesq方程式の計算方法と共に改善されるべき点であると考えている。

 

討論者 池野 正明(電力中央研究所)

質疑

 砕波帯内で新たに発生する長周期波の振幅や位相等をサーフェイスローラーモデルで表現できるということは、サーフェースローラーモデルがどういう役割を果たしていると考えるのか。

 また、従来の渦動粘性型減衰項では上記を再現できないのか。両者に差が出るとすればどういう働きの違いによるものか、わかりやすく説明いただきたい。

回答

 砕波帯内での波浪場の数値計算における surface roller 項の役割としては、主に以下の二つが挙げられる。一つは、surface roller 項の導入により砕波減衰が表現できることで、もう一つは、surface roller のもつ運動量をモデルに反映することで、radiation stress の時空間分布をより的確に表現できるとい

うことである。

 渦動粘性係数型の砕波減衰項との相違は、渦動粘性型が主に波の峰と谷付近でエネルギー減衰を起こすのに対し、surface roller 項は波峰前面で減衰を起こすのでより現実の砕波に近いと言える。また、渦動粘性係数型は結果として、波峰の先鋭化を妨げる要因となりうる。さらに、渦動粘性係数型は砕波の持つ(波

峰前面の水塊による)付加的な運動量(質量およびエネルギー共に)を表現できないため、radiation stress をはじめとする砕波帯内での質量・運動量・エネルギーのバランスを的確に表現できないと考えられる。

 

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