論文番号 255

著者名 多田彰秀・福本 正・西田秀紀・高村浩彰

論文題目 橋脚ケーソン設置支援のための超音波ドップラー流速計による流況観測

討論者 松本晃治(()阿土建設コンサルタント 技術部2課)

質疑

 1.潮止りの定義、潮止りと言える流速、工事(ケーソン設置)に支障のない流速は?

回答

 1.海上保安庁から発行されている平成9年潮汐表(第1巻;日本及び付近、pp.435436)に基づけば、潮止りは次のように定義されている。すなわち、

  『水道等(の潮流)においては直線的で、普通一方向に最強となり、しだいに流速を減じついに流れが停止する。この状態を憩流(Slack water)という。次いで逆の方向に流れ始め、流速を増して最強流に達した後、流速を減少して再び憩流となり、これを周期的にくり返すのである。憩流をまた転流(Turn of tidal stream)ともいう。』

 寺島水道では、全水深に渡って流れが停止する時間は極めて短く判別が難しかったので、本論文では流速の絶対値が7.0 cm/s以下となっている時間を「潮止り」と仮定して議論を進めた。なお、大島大橋での施工実績より、ケーソン設置工事に支障のない流速は以下のとおりであった。

 1.ケーソン沈設開始; 約50cm/s以下

 2.ケーソン着底開始; 約25cm/s以下

質疑

 2.水深方向に潮止りの時刻差が大きく、全ての水深で潮止りになる時刻がない場合、どういう考えでケーソンの設置を行うか、あるいはその対策はあるか?

回答

 2.この種の海工事では、工事対象地点近傍の流速が大きい場合にケーソンを着底させようとすれば、海底面の洗掘が発生し、工程に支障を来す場合が考えられる。すなわち、ケーソンの沈設とともに、ケーソン底面と海底面との間の流水部の空間が減少していき、それに伴って流水部の流速は縮流効果によって増大する。その値が海底面の限界摩擦速度より大きい場合には、海底面が洗掘されるのである。さらに、洗掘の規模に応じては、洗掘・崩壊した土砂の撤去および海底面の均しが必要となるため、ケーソン設置工事が中止される場合もある。したがって、潮止り時刻の判別が難しい海域でケーソンを設置する際には、洗掘が発生する限界流速値以下にケーソン設置点近傍の流速が減速するまで待機し、その後、速やかに着底させればよいものと考えられる。

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討論者 外山雅昭(大成建設()土木設計第二部)

質疑

 1.計測地点とケーソン設置地点が同一でないのは、設置当日においても計測することを考慮してなのか?

回答

 1.論文では、ケーソン設置時の潮止り時刻の予測手法を提案しており、その手法の妥当性を確認する必要があったために、ケーソン設置当日においてもADCPを用いて潮流の計測を実施した。したがって、計測地点とケーソン設置地点が異なっている。より厳密に言えば、10 4日の観測地点(St.C)、ケーソン設置地点およびケーソン設置当日の観測地点(1031日;St.B1116日;St.A)はすべて異なっていた。

質疑

 2.水深方向の流速分布に関する計測結果は施工にどのように反映されたのか?

回答

 2.下図は、着底直前のケーソンと海底面との位置関係を示したものである。潮流が微弱になる前の段階でケーソンを着底させる場合には、図示されている台座コンクリート(海底面の突起部)、掘削後に仕上げられた海底面(斜面部も含む)、ケーソン底面およびケーソン側面から囲まれる流水断面がケーソンの沈設とともに減少するために、縮流効果によってそこでの流速が増大し、A点近傍から洗掘の発生が懸念された。このため、ADCPによって計測された流速分布は、主として掘削後に仕上げられた海底面および海底斜面の洗掘防止に用いられた。

 

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