論文番号 233

著者名 羽原 浩史、大下 茂、高濱 繁盛、今村 均

論文題目 ミチゲーションを目的に造成した人工干潟の機能評価

討論者 磯部 雅彦(東京大学)

質疑  

五日市人工干潟の設計において,波・流れの作用等を考慮して最終的にできる平衡地形についてどのような検討がなされたか。

回答

波の作用によって最終的に得られる平衡断面勾配は,SMB法により波浪推算を行い,この設計波浪,広島湾の潮位及び干潟材料等を用いて,レクター式及びスワート式から算定しています。 また,本施工を実施する段階で干潟材料(浚渫土・海砂)の投入実験を行い,干潟材料の投入後の土質強度・安定勾配・土量変化率について検討しています。さらに,軟弱な在来地盤上において浚渫土により干潟を造成しているため,継続的な圧密沈下が予測されています。従って,沈下量を継続的に調査・解析することで人工干潟の改良を検討していく予定です。

 

討論者 小笹(運輸省港湾技術研究所)

質疑  

 将来の計画であるが,陸上の泥地と前浜干潟の部分が護岸で切断されてしまう。

 将来護岸をきって(高潮,波浪に対する防災対策の検討は必要となるが),汽水域をつくることを考える必要があるのではないか。

 海岸汀線直角方向の連続した生態系の回復が重要と考える。

回答

陸上の泥地とは現在埋立中の埋立後の土地利用での野鳥園構想を想定された質問と思われます。ご意見のとおり,法律上の問題や技術的な問題はありますが,出来れば野鳥園内に汽水域をつくり,海岸汀線直角方向の連続した生態系の創造が出来ればさらに踏み込んだミチゲーション計画になると考えます。

 

討論者 河田 恵昭(京都大学防災研究所)

質疑  

 人工干潟計画フロー図はある狭い条件下で適用できるものであって,たとえば八幡川の水質が経年的に変わることを導入すべきである。

回答

 今回提案させて頂いた人工干潟の計画フローは,1.環境影響を受ける全ての対象をミチゲーションの対象と出来ないので,「目的とする機能」を明確にする必要があること,2.計画したミチゲーションの機能を将来とも担保していくためには,「維持管理方法とそのコストの検討」が重要であること,3.生態系を対象とするミチゲーションの場合,今のところ人為的に生態系を創造するだけの知見が十分ではなく,「試験施工」若しくはそれに類する方法でミチゲーション計画そのものの妥当性を検証する必要があること,4.また,検証するためには「評価」が必要であること,が重要と考えており,それらの位置付けを明確にする必要がありましたので,種々の条件を省いてあえて提案させて頂きました。

また,ご質問の八幡川の水質変化は外的変化条件に含まれるものと考えられますが,外的変化条件の取り扱い,つまりミチゲーション計画におけるバウンダリーの考え方については,今後検討が必要と考えています。

 

討論者 裴 義光(日本建設コンサルタント(株))

質疑  

 ミチゲーション手法における検討フローの中で提示された「試験施工」の施工規模設定の考え方をお聞かせ下さい。

 鳥類の飛来、底生生物の繁殖等は施工規模に依存すると考えられる。

回答

 試験施工の規模の考え方については,目的とする人工干潟の機能によると考えています。例えば,今回紹介した五日市地区人工干潟の場合は,鳥類の採餌場・休息場の機能確保がミチゲーション目的となっています。従って,鳥類の飛来を規定する1つとしてベントス群の生息の是非が考えられます。このベントス群の生息状況の変化を調査するためだけであれば,他の事例として25m×50m程度の調査施設を作った例があります。

 要は,ミチゲーションの目的を何にするかによって試験施工の規模は変わると考えています。

 

討論者 田中 茂信(建設省土木研究所海岸研究室)

質疑  

 ミチゲーションの開始段階において,埋立地の周辺環境に与える影響が把握されていると思うが,埋立で失われる干潟以外に現在及び将来においてその影響を受ける環境に対するミチゲーションはどう扱われているか。また,どうすべきと考えておられるか。

回答

 埋立てそのものに対する環境影響としては,一般的に考えて,海域環境に限っても潮流・水質変化はもとより,それによる海域生態系全体に及ぶものと考えられます。しかし,その評価において軽微な影響,ないしはごく限られた範囲での影響と予測されるものまで,ミチゲーションの対象を拡大することは,現実的・経済的に困難と考えています。

 従って,「持続可能な開発」を大前提に,影響度の大きな環境変化やその時々の時点で技術的に対応可能な対象について,ミチゲーションを検討することが重要と考えます。

 

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