はしがき (土木学会関西支部長 近藤泰夫,昭和29年11月)

昨今の相次ぐ災害のうちでも,目立つて大きくなつたように思われるのは,
海岸の災害である.昨年の13号台風では,愛知・三重海岸に1,200億円にも及
ぶ大災害をもたらし,本年の15号台風では,函館港外で多数の船舶が沈没し
て多くの死傷者を出している.いずれも波の過程を経て海岸に到達する莫大
なエネルギーのためであるが,重要な生活圏である海岸を維持発展させるた
めのわれわれの苦闘は,いわば失敗の歴史をくりかえすに過ぎなかつたよう
であり,今後も問題はきわめて多いであろう.こうした意味から,海岸過程
の科学的な解明の必要が,古くから痛感されてきたのであるが,米国におけ
る活発な研究活動を中心として,海岸工学なる新たな分野が最近数年間に漸
く体系化されようとする気運にあることは,海岸工事の設計施工の合理化の
ために誠に喜ばしいことである.特に米国のCouncil on Wave Researchが1950
年以来毎年1回Coastal Engineeringの会議をもち国際的な会議へと発展して
きたことは,きわめて大きい意義があるといわねばならない.わが国でも戦
後この方面の研究が漸く活発となり,新潟,富山,鳥取,大阪などの府県で
は委員会が組織され,土木,地球物理,地質その他の関係者が協力して,海
岸浸食現象の解明と対策の樹立に寄与することが少なくなかつた.最近は文
部省科学研究費による総合研究班によつて,新たな海岸工学の確立を目指し
て研究が続けられ,建設省建設技術研究補助金による海岸堤防の理論的設計
基準の研究も,海岸工学の具体的応用として注目されるものである.

たまたまこれらの研究関係者が関西に集まつてシンポジュームの会合が行わ
れるということであったので,あわせて海岸工事の計画設計に関する科学技
術の現況をとりまとめて報告してもらうことにして開催したのが,この海岸
工学研究発表会である.関係の権威者16氏から,海岸工学の全分野にわたつ
て最近の研究成果の全貌を拝聴できるようになつたことは,われわれとして
この上ない幸である.

講演の要旨を記述したこの小冊子が,新たな海岸工学の進歩発展と海岸災害
の防護軽減に寄与するように念願してやまない次第である.

御講演を願う各位並びに研究発表会の開催に多大の御後援を仰いだ運輸省第
三港湾建設局,建設省中部地方建設局,神戸市その他に深甚な謝意を表する.

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